某センター模試の古文の訳が酷かったので訳をあげる回

一段落

 桐壺帝におかれても、亡き弟宮のことをお忘れにならず、なつかしく思い出しなさり続け、折々の御訪問は絶えずあった。源氏の君にも、「前の皇太子の御息所が寂しく物思いにふけっていらっしゃるだろうから、時々は訪問しなさいね」などと言いつけなさったところ、本当に奥ゆかしく風流な方だと前々から聞いていらっしゃった方のことであったので、一方では自らでもお会いしてみたいとお思いになり、ある日、宮中から退出しなさると言って、夕方に出発なさった。

 注釈:

・1行目の「あはれ」を「しみじみ」と訳すのは不自然

・「御門のもとに御車を立てさせて」の部分に尊敬語がつけられていないのは、動詞の連用形で述語が繰り返される時には尊敬語は最後の述語だけにつければいいため

・「かつは」によって桐壺帝に言われたからという受動的な動機の一方で、自分から会ってみたいと思っていたという自発的な動機があることが明示されてることに注意しないといけない

・「おはしまし」は「いらっしゃった」でも間違いとは言えないが、二段落の初めに一段落からの時間の経過が述べられているので「行く」の中でも出発することに焦点が当たっていると思われる

二段落

 距離が遠かったのですっかり日が暮れてから到着なさった。門のところに御車を止めさせ、御随身を中へ入れて来意を伝えさせなさっている間に、少しお顔を外に出して中をご覧になったところ、木立はたいそう古びていて、一面仄暗いと見え、雰囲気はしめやかであり、奥ゆかしいと自然に思いを馳せなさった。その時、その音ともはっきり聞き分けられないほど小さい物音が松風に響き合わさって絶え絶えに聞こえてくることも、「趣深く優雅で、並々ならぬ爪音である」とことさらにお聞きになるにつけても、期待に胸を弾ませなさった。源氏の君は何事も世に名高くいらっしゃるので、「間違えるはずもない御息所のお琴の音だ」と思い、お耳を留めて聴いていらっしゃる。邸の中では、突然の御訪問に人々はあれまあとあわてながら、がやがやと騒ぐ間に、お琴は半ばで弾くのをやめた。「中途半端なことよ」と源氏の君は残念にお思いになる。

 注釈:

・「心にくく思ひやられ給ふ」を「自然と思いやられなさる」と訳すのは誤訳で、この場面では邸の外から中の様子について思っているという距離の隔たりがあることを示すために補助動詞の「やる」が使われている。「思いを馳せる」などの訳を当てるのが自然

・「聞きなし給ふにも」の「にも」は「〜につけても」と訳す方がいい

・「心ときめき」は良い意味にも悪い意味にも用い、期待や不安などに胸がドキドキすることを言う。「お心がときめいて」はおかしい

・「ささめき騒ぐ」を字のまま解釈すると「小言で騒ぐ」という意味になるが、「あれまあとあわてて」いる状況を考えるに「さざめき」が「ささめき」に間違えられたんじゃないかと思うけどここは知らん

 

 ここからはそこまで解答の訳に文句はない。三段落の「とみに出でくる」は「すぐに出迎える」と訳すべきのような気もするが別にどうでもいい。四段落の「思ひ給へつつみ」の部分では複合動詞に謙譲(丁寧)語の「給へ」がつく場合は間に割って入ることが確認できるので面白い。最終段落の「二年ばかりにもなりぬれば」は「二年ほどにもなったところ」と訳すべき

 

 初めは全訳をあげようかと思ったが、三段落以降は訳を考えるのがめんどくさくて解答を参考にしながら書いていて著作権的にヤバいと思ったのでやめた。解答に載っているような訳は問題の解説のついでのように適当に書かれているように思えてならないが、こういう真面目に復習をしようとしている人への学びの妨害になるような解説の書き方は無責任で、予備校のこのような適当な姿勢が適当な勉強を生むんじゃないかと思うので僕は爆発した。というかそもそも解説の分量が少なすぎで、問題を解いた後に文法や単語についての知識の確認をすることが復習だと思うのでせめて覚えておくべき重要語くらいは載せるべき。僕はこんなことしてないで勉強しろ